人として大切なこととは?

子、孫、そして次の世代に伝えておきたい忘れてはいけない記録

第104話 5度目の警察沙汰

この日は特に忙しい日だった。

調停に行き、父の退院を迎えに行き、実家に連れて帰る予定だった。

調停は結局、相手方である妹たちは来なかった。そのことは想定していたので特に驚かなかった。

調停員は初老のおじちゃんとおばちゃんだったが、そもそも調書すら目を通さずに調停に出てきた。

なので、言われるままに最初から最後までのいきさつを説明したのだが、おじちゃんは理解力がないのか、何度も問いただしたり確認したり、質問してきた。明らかに調書を読んでないと感じたのでそのまま、

「調停員さんは忙しいのでしょうね。でも、数枚の調書すら読んでないのですね。」

と嫌味を言うと、図星なのかモゴモゴしながら、

「いや内容を確かめてるだけでね。」

と誤魔化していたが、内容を理解してないのは明らかだった。

調停員は素人のアルバイトなので当たり外れがあるとは、調べて知っていた。

さいさきが悪いなと思った。

案の定、一通りの説明が終わったら、お待ち下さいと言って別室の相手方の方に行った。

「相手方は来られていませんでした。」

と言われた。

予想通りだった。

「相手方からは見せないでほしいと言うことで、書面が提出されています。」

と、見せられない書類を如何にも見せびらかすようにチラつかされた。

その文書には、おそらく小さい頃に姉にいじめられ受けた幼児虐待のフラッシュバックで精神的な後遺症が現在出ているなどと書いているのだろう。実際に名奈がそう言っていたし。

後遺症が出るほどいじめた事はないと思う。

妹が小さい頃なら私も小さい頃なので。

だいたい名奈をいじめたり、名奈とけんかした思い出はない。兄弟で早奈をハミゴにした記憶はある。覚えているのはその程度だ。

しかも、私ですら記憶が薄い小さい頃の話だ。

中学生の頃は妹たちに全く絡んでない、学校から帰って毎日塾だったし、土日は勉強で部屋に篭もっていた。高校生の頃はおばあちゃんの家から学校に通い、大学生の頃はバイト三昧だった。

おそらく、早奈の中でどんどん小さな記憶が妄想で大きく膨らんでしまっていただけだと思う。

それが、名奈は覚えていないはずの記憶が早奈から名奈にすり替えられ、名奈の記憶のようになっている。

女性の調停員が、初めて口を開いた。

「相手方が来なかったという事は、あなたの調書の内容を認めたと言う事でしょう。負けるのがわかってるから来なかった。反論があるのなら今日来たでしょうから。」

と言われた。

私自身は、やるだけのことをやったので、これでよかったと思った。

しかも、明らかに今は私が潔白であるといつでも堂々と証明が可能なのだから。

 

娘が車で迎えに来てくれていたので、その足で父の退院のため、病院に向かった。

何も伝えてないのに、めちゃくちゃタイミングよく、バイクで病院まで息子が来てくれた。

4度目の警察沙汰でもタイミング良く助けに来てくれた。

父を車椅子で迎えに行き、主治医の先生から説明を受けた。

実家に戻ると、母と新しく交代したケアマネさんが待ってくれていた。

さて、難関は、実家の登り階段だった。

ケアマネさんとどうやって父を上に連れていくのか、椅子に座らせて階段を登るとか、色々考えた。

以前も全く同じ光景があった。デジャヴだ。

コロナ退院で父が実家に戻った時だ。

その時は、名奈の旦那さん、早奈の旦那さん、ケアマネさん、私の4人で椅子に座った父を持ち上げ落ちないように娘が父を支えてゆっくり登った。

今回は人数が不足している。

ところが、ずっとクラブで身体を鍛えていた息子が、

「じいちゃん、おんぶしてもいいですか?」

とケアマネさんに聞いた。

「落とさない?大丈夫なら。」

とはいえ、父は結構重たい。70キロくらいはある。

息子は、おじいちゃんをヒョイっとおんぶして軽々とベッドまで運んだ。

やっぱり息子やるなぁ。息子の存在はとても頼もしかった。

私はケアマネさんに病院の担当の先生からもらった主治医への手紙、注意点などを細かく説明した。

本来なら、妹に直接伝えれたらすんなりいくのに、ケアマネさんを一旦介さなくてはならないと思いながらも話していると…。

母が口を挟んできた。

早奈ちゃんにも内容を伝えてほしいと。

「えっ?早奈ちゃんいるの?どこに?」

なんと!

早奈は2階に息を潜めて隠れていた。

しかも、自分の靴と鞄まで持って上がり2階で聞き耳を立てていたのだ。

そんなことしなくても、父の引き継ぎの話は普通に聞けばいいのに。

姉が妹を取って食う訳でもないし、休戦して話を聞くことすら出来ないのかと、情けなくなった。

息子が、

「早奈ちゃん、2階にいるのならちゃんと今後の話をするべきやろ?降りてきてや!」

と言いつつ2階に上がって行こうとした。

その時だった!

早奈は、大きなオレンジ色のビニールカバンと自分の靴をかかえて、ドドドドォーっと階段を一気に転げ落ちるように降りてきた。

スマホ片手に裸足で私とケアマネさんの間をかき分け、玄関を走り抜けた途端、大声で叫んだ!

「ギャー!ギャー!警察ですか!ギャー!刺されます!あー!助けてー!殺されます!殺されるんです!助けて下さい!あー!殺される!ギャー!刺される!助けてー!ギャー!助けてー!殺されるー!」

「殺される」を何度も繰り返していた。

新しく来たケアマネさんは、驚いて目を白黒させていた。

気の短い息子が、

「おい!何言ってるねん!逃げるな!話すだけやろ!」

と怒鳴った。

すると、早奈は実家から2軒先にある家まで逃げ、老婦人が丁度買い物から帰ってきた車の後部座席に勝手に飛び乗った。

「車を出して!」

と命令した。

おばあさんは、びっくりして怖くて震えていたが、

追いかけてきた娘が、

「この人危険ですから、とにかく早く車から出てください!」

と指示すると、おばあさんはすぐ車から出て慌てて家の中に入った。

息子と娘の後を追った私が見たのは、

勝手に他人の車の後部座席に籠城している早奈の姿だった。

思わず、

「えっ・・・。アホやん。完全に、キチガイやん。」

と心の中で思った。

 

私を陥れるために今まで色々なことをしてきた。

心の中でそれは当然姉に逆恨みされて「仕返しされる」と勝手に思い込んでいる。

「姉に殺される。」

それほど恨まれいると勝手に思い込んでいる。

その自分の描いた妄想に押し潰されそうになり、自分が自分の妄想に確実に追い込まれている奇妙な姿だった。

そこからの出来事は全く知らない。

 

娘が、

「お母さんを見たらまた、早奈ちゃんが逆上するから、お母さんどっか行っといて!」

と言われたからだ。

車に乗って、実家の裏側に停めて待機していた。

しばらくすると、実家の事情をよく知っているいつもの警察官が車まで事情聴取に来た。

「大丈夫ですか?こちらで待っていて下さいね。また騒動ですね。あの妹さん何か精神的な病気ですか?ホントに困ったもんだ。」

と完全に呆れていた。

「さあ?何なんでしょう、私もいい加減にして欲しいんです。」

と答えた。

もう、何度も名前、年齢、住所、兄弟関係など聞かれているので、何も聞かれなかった。

 

ただ、両親の顔を見たのはこの日が最後となった。

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