第82話 ピンクのバインダー ①
モヤモヤした毎日だったが、父や母との会話やみんなであちこち出かける土日はとても楽しかった。
遠出しなくても、近くの公園まで歩いて行き日なたぼっこしたり、景色や孫達が楽しく遊ぶのを微笑ましく見なから、父とぼーっとしたりもした。
実家の近くには芸能人も結構住んでいるので、お散歩に行くと声を掛けて下さったり、子ども達と遊んでくれたりもしていた。
父の近所の知り合いもかならず、
「おっ、娘さんとお散歩ですか?お元気そうで何よりですね。」
と声を掛けて下さる。
そんなある日実家でとんでもないものを見つけてしまった。
以前、警察沙汰になった時に早奈が大事そうに小脇に抱えて、
「ここに証拠があります!」
と勝ち誇ったように見せびらかしていた、ピンクのバインダーだった。
その日電話台の横に無造作に立て掛けてあった。
えっ!?
あの証拠のバインダー!?と思った。
中身を見たら、ただ無地の紙がたくさん挟んであるだけだった。
特に何も入っていなかった。
だよな〜。
こんな所に大事な証拠を置くわけがないよな。
と思った。
何の気なしにペラペラっとめくってみた。
すると!
無地の紙の下に何枚も父の字で書かれた文章が出てきた。
要するに、その紙には日常あったことを父が日記の如く書いていたのだ。
正確には書かされていたのか。
ただそれだけだった。
がっ!
よく中身に目を通してみた。
自分の目を疑うほどぶったまげた。
おそらく、早奈と名奈は姉が父のお金を騙し取ったという証言を父に書かそうとしていたのだろう。
事の前後がわからなくなってしまった父を「誘導」「洗脳」したように感じる。
いかんせん、認知度の低下が見られる父だが、本来の真面目で正直な性格はしっかり残っていた。
必死に
「名奈と早奈の言いなりには書かないぞ!」
という抵抗の跡が見られた。
その中の数枚を写真に撮った。
この文章の中にあるキーワードがまさに、早奈と名奈の日常であったことを示している。
音読、パズルは脳の活性化にはいいアイデアだろう。
何度も父が「ドナリチラシ」と書いている。
そして、16時迄に夕食を食べている。
この時間の記録で、何故勝手に火曜日17時20分からの訪問ケアをやめたのかが理解できた。
実は早いうちから火曜日の訪問ケアは相談もなく、勝手になくなっていた。
妹たちは、16時までに風呂、食事を済ませて、17時に帰宅するためには17時20分から40分間ある訪問ケアは邪魔だったからだ。
特に攻めるつもりはないが。
父が言われた通りに書かされていることがよくわかる。
しかも、ドナリチラシは毎日書かれていたので、名奈がAlexaを盗聴器だと言って異常に毛嫌いしていた意味がここでハッキリした。
「名奈が言う」「早奈が言う」「姉をかなり憎んでいるようだ。」と書いていても、
父は決して「父自身が言う」「父自身が思う」とは書いていない。
私の事を決して悪く書いていない。(お父さんナイス!)
実は母用のノートも見つけたのだが写真は撮らなかった。
そのノートには、毎日、毎日、早奈と名奈を崇めたてまつるような感謝の文章が山ほど書かれていた。
早奈ちゃん食事を作ってくれてありがとう。
名奈ちゃんが庭掃除をしてくれました。
ありがとうございます。
いつも感謝しております。
という感謝の言葉の繰り返しだった。
ちなみに私の名前すら書かれていなかった。
写真を撮ったのはほんの一部だったが下記に記す。
▶ 市会議員さんの件で母と名奈大げんか
▶ 早奈が来る ドナリチラシ
「生かされていることに感謝しろ」との注意あり。
▶ 名奈が姉をゆるさない。
警察を呼ぶ2回目
今回は7名来る。
父の家をけがさせたとさけんでいた。
名奈が一日中言っていた。
父の実家に申し訳旨の発言が名奈より
▶ 名奈がどなった 理由は、
姉が警察を呼んで 名奈早奈がいる前
こわい目! 女
父の実家より孫全員に10万円を配る。
なのに姉がお金をかりた
絶対に許さないらしい
▶ 名奈がどなりちらす!
▶ 早奈にどなられる
洗濯物をたたみ、自分でトイレに行きます。
▶ 姉のあと名奈言う
ひげがぼうぼう
姉はだらしない
2012年11月2,400万円お金が消える。
2013年3月定期預金130万円最終段階
名奈いわく 姉の家に吸い取られた
父記録より調べたらしい
▶ 洗濯物をたたむ
1時間毎にトイレに行く
弟が週末帰ってきていた
姉がいるから帰宅できず かえりたくないようだ
姉は最低 警察を呼ぶ女なようだ かなり憎む
▶ 迷惑をかけたようだ
常識がないと名奈が言っている
計画妊娠 だと → 名奈が言う?
最後の文章、弟にもこの「計画妊娠」という言葉で直接罵られた。
父がここにも書いている。
名奈が思いついた最悪レベルの娘を傷つけるために知恵を絞った言葉だったのだと思う。
「介護」「2,600万事件」「姉という私」
その3つに、娘は一体何の関係があるんだろう?
とんだとばっちりだった。
まさか、自分の妹が姪っ子である私の娘を最悪レベルな言葉で、傷つけるなんて思いもしなかった。
悲しいかな、娘を巻き込んだために娘の心を深く傷つけてしまった。
父の介護に積極的に加わってくれた娘。
私が早朝に出社する時に、いつも常に父のベッド横の狭い空間に布団を敷いて寝ていた。
感謝こそしても、ここまで酷い言葉で罵る妹が切実に心の悲しい人だと感じた。
仮に、名奈の娘に同じ言葉を私がもしも言ったら、どんなに傷ついた気持ちになるだろうなんてことは、考えないのだろう。
この中で父が洗濯物をたたむという日課を課せられている。
この頃、母が父にめちゃくちゃ偉そうに、
「ちょっとあなた!洗濯物くらい自分でたたみなさい!」
としきりにキツく命令していた意味がこれでわかった。
早奈と名奈が父に課し命令していた口調と全く同じように、母が言っていたのだ。
父と母の日常が「ドナリチラシ」の日々だった事が、
「早奈が証拠だと見せびらかしていたバインダー」
の発覚で理解できた。
名奈も早奈も、市立病院の先生が脳のCT写真を見て明らかに認知症の症状があり、進行していくと告げてくれたのに、2人そろって頑なに、
「認知症じゃないから!」
と絶対に認めず怒り狂っていた。
だが、実際には両親が事の前後がわからなくなってしまい何も言えないことをうまく利用して、毎日、毎日ドナリチラシて過ごしていたんだと思う。
それこそ許せない行為だと思う。
一番この父の文章の中で衝撃的な言葉は早奈が父に言い放った言葉だった。
「生かされていることに感謝しろ!」
自分を育ててくれた親によくもそんな言葉が言えたものだ。
「父を生かしているのは早奈の名奈であり、私達があんたの世話をしてやってる。」
「私達に生かされていることに感謝しろ!」
という意味だと私はとらえた。
父も同じ気持ちだったのだと思う。
「お前にいわれたくないわ!」という気持ちで記録したのだと。
つくづく早奈という人の「人間性」について考えさせられた。
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