「デイケアが祝日(姉の担当日)に当たる時は休みます。」
参照 第73話 祝日の悪夢
という何とも滑稽な嫌がらせを実行した翌日、さらに意味不明な手紙が自宅のポストに入っていた。
主人がポストから出して、
「何だこれ?」
と不思議そうな顔をして渡してくれた。
ツッコミどころ満載で思わず笑ってしまった。
① まず文書中に宛先がないので、誰宛に書いたのか不明。
② 次に差出人が不明。
② 誰が家族会議をしたのだろうか?
③ 連絡期限と書いているが、誰が誰に返信するのだろう?
恐らく私が早奈と名奈にとは想像出来るが、着信拒否されている。
実家に手紙を書いておくしか方法はない。
④ キーパーソンとは一体何なのかが全く把握できていない。
介護におけるキーパーソンは、介護者が1人しかいなければキーパーソンは必要ないだろう。
介護に携わる人が、2人、3人となってきた場合、例えば兄弟の意見がまとまらず、各々が連絡してきたら、デイケアもレンタル会社も病院もケアマネージャーも地域包括担当も、情報が右往左往して決めかねて混乱する。
それを防ぐために、必ずキーパーソンを1人決めている。
まずは、父の状態を把握できる人でないと意味がない。その上で兄弟の意見をまとめて、キーパーソンから報告、逆にケアマネージャーや病院は、キーパーソンにだけ連絡すれば他の人に展開してくれるので安心だろう。
当然年齢から言っても、両親といる時間から言っても、父の状況や変化などを観察する能力から言っても私が適任だと思う。
そもそも、なるべく両親といる時間を減らそうとしている妹たちとは違う。
たとえ土日だけしか一緒にいないとしても、常に父の側にいて歩く速度、立ち上がり方、足の具合、疲労度、トイレの回数、顔色、話し方などを注意深く見ているので、それだけは自信を持って言える。
さらに、決め事に関してはすぐに相手に返事することなく、必ず早奈と名奈に話しを展開し意見を求めてから回答するように心掛けていた。
着信拒否をされてからは、連絡手段は手紙を書いて実家に置くようにしていた。
姉が嫌なのなら、早奈か名奈が担当するのならまだ話しはわかる。
何故、介護に一切関わっていない弟がキーパーソンって書いたのだろうか。
弟に例えばケアマネージャーが父の今の状況を報告したところで、父のことは何一つ理解していない。
しかも、弟は仕事中に携帯は一切出ない。
メッセージの返信も1日後などかなり遅い。
弟を介したところで、父の状況説明も、父の報告に対しての対応も弟には無理だった。
正直言い方は悪いが、宛先も差出人の名前もない稚拙な文書もキーパーソンの意味を全く理解していない。
方針も状況も把握出来ず何一つ定まっていない。
「バッカじゃないの!?」
とちゃんちゃらおかしくて、笑ってしまった。
恐らく二人で相談して、姉にダメージを与えるための相談でもして、さらにパソコンでわざわざ文書を打ったのだろう。
ただ、その文書には手紙の基本の「き」さえも出来ていない、使えない文書だった。
たとえ「いつ」が抜けていたとしても、「誰が」「誰宛てに」書いた手紙なのかを示すのは小学生でもわかる基本だろう。
孫からのお手紙でさえ、ばあばへ ○○より と必ず書いてある。
案の定その後、ケアマネージャーさんからも地域包括担当者からも訪問介護センターからも電話があった。
用件は、弟をキーパーソンにする事についてだった。
そもそも弟さんは実家にいないし、面識もない、電話番号も知らない、ご両親の状態も把握していないので無理がある。
このまま、お姉さんでいいですよね~?という主旨で確認の電話があったので、
「ですよね~。私でいいです。すみません。(笑)」
と承諾した。
そもそも、訪問ケア(週3回)実施のためには、主治医が書いてくれる「訪問看護指示書」が必要だった。
それを書いてもらうために2ヶ月に1度父と一緒に○○○医院までの約800mの道のりを毎回歩いて行っていたのは私だった。
たった800mなのだが、父にとっては大変な距離だった。
一歩一歩杖をついて歩く父に寄り添って歩くのは介助者にとってもかなり大変だったが、私と父の大事な行事の一つだった。
その際に、主治医に父の今の状態を話すのも主治医から検査結果や日頃の注意点を聞くのも大事なキーパーソンとしての役割だった。
そういったキーパーソン的な事を、姉に任せて自分たちはほったらかしていたのに、姉をキーパーソンから外して弟にする?
一体何がしたいのか不明だった。
今までと変わらず、私がキーパーソンで、名奈が気に入らないことがあれば、ケアマネージャーにやんや!やんや!と直接連絡するから、今までと同じだった。