人として大切なこととは?

子、孫、そして次の世代に伝えておきたい忘れてはいけない記録

第15話 娘の入学祝い

実は母が退院したのが2022年の2月末で、早奈の娘(次女)の卒業、大学進学の時期と重なっていた。

母が退院してから、何で焦っているのか不可解だったが早奈は事あるごとに何度も何度も同じことを言っていた。

「娘の入学祝いをお母さんからもらってないから、郵便局にお母さんを連れて行かないとあかん。」

と。

実は、郵便局は母の年金が2か月に一度入る口座だった。

 

その言葉を聞いて、私は一言も言い返さなかったが、心の中で、なんて厚かましいのだろう?と思ってしまった。

確かに私は長女なので、既に娘と息子の大学の入学祝いは、ちゃっかりもらい済みだった。


だけど、例えば両親が入学のお祝いを永遠に渡し忘れていたとしても、間違えても、


「入学のお祝いもらってないんだけど?ちょうだい。」


なんて、そんな厚かましい言葉は口が裂けても言えなかっただろう。

そもそも、お祝いとは好意で貰うものなので、決してこちらから催促するものではないだろう。

姉の私が聞いている前で平気でそこまでせこい事を言うことが恥ずかしいと思わないのか?

ホント不思議に思った。


呆れることに、本当に早奈は通帳と印鑑、キャッシュカードを持って母を連れて郵便局に行った。

ところが、母はカード番号を失念、3回試して凍結した。


持って行った印鑑は当てはまる印影じゃなかった。

通帳も印鑑も再発行し自宅に郵送の手順となったらしい。

本人確認のもと新しい印鑑を登録し直し、キャッシュカード、通帳を再発行申請してきたと早奈本人から聞いた。

その後、お祝いについてはどうなったのかは全く知らない。

 

だがその後、グループLINEの会話の中で名奈が母が使えない通帳とキャッシュカード持っておろしに行ったと書いていたので、母には戻っていない。

 

そもそも、両親の認知症について何故か妹達は揃って完全否定だった。

私が何度か両親の記憶がおかしい状態だと発言すると、

お父さんもお母さんもしっかりしてます!

勝手に病気にしんとって!

年齢なりですから!

と声を荒らげて大声で否定してきた。

しかし、母はつい先ほど食べたお昼ご飯のメニューは全く覚えていない。

面白いことに朝はいつもパンだから、

「パン食べた」

とは答えられるが。

昨日どこに行ったのか、今日は何日なのか、今の季節さえも時々あやふやだった。

つい先程自分が言った言葉の記憶も消えていたり、はたまた強烈な記憶は翌日もずっと覚えていたりしてかなり不安定だった。

そこのところの思考回路がどうなっているのかは、全く計り知れなかった。

それでも、母の記憶は、父よりは少ししっかりはしていた。

 

母は自分の通帳やお金に関する事は、誰持っていてどうしている、なんて事に全く疑うこともなく疑問もなかった。

しかも独自で出かけることはないので、財布自体使う事もなくなった。


再登録した印鑑と通帳、キャッシュカードは間違いなく早奈が持っていた。

 

それから…。

 

その通帳とキャッシュカードの置き場所さえ知らない私が、それらを盗んだり、母の財布からお金を盗む泥棒になるとは、思いもよらなかった。