人として大切なこととは?

子、孫、そして次の世代に伝えておきたい忘れてはいけない記録

第26話 要介護5の父お風呂に入る

何度も何度も、それこそ何度もお風呂椅子の購入を検討してほしいと、名奈に頼んでいた。

まだ早い、お風呂椅子は色々な種類があるから早まったらだめだという理由でなかなか話しが前に進まなかった。

勝手に自腹で買う手もあったのだが。

介護保険を適用すると安くなるかも?

(実際に購入する段階になってわかったことだが、お風呂椅子は、個人的に使う衛生用品に当たるので、レンタルはない。全額自己負担のの買取だと知った)

という事と、

兄弟間のトラブルは絶対に嫌だった。

だからお風呂椅子を自腹で購入するのは簡単な事なのだが自分勝手な行動は、極力控えたかった。

姉という立場もあり、もしも妹が勝手に相談もなくそんな事をしたら、自分はモヤモヤするし気分が悪いだろう。

これがきっかけで、今、保たれたている兄弟関係が崩れるのも嫌だった。

なので、名奈にお風呂椅子導入をお願いしていたのだが、反応なしだった。

お風呂好きの父は、以前は毎日お風呂に入っていたし、最近は朝風呂にゆっくり入っていると話していた。

余談だが。

逆に、母は何日もお風呂に入らない、入らなくても平気な人だった。

よく小さい頃、床に新聞紙を敷いて読むのでなく、頭をボリボリ掻いてフケを落として集めていた。

そんな母を横目で見て何してるんだろうお母さんは?

そんなに頭かゆいんやったら、サッサとお風呂で頭洗えばいいのになぁ。

と、次から次へと頭からほろほろと落ちてくるフケの雪をお母さんの横に座ってTVを眺めながらチラチラと白い目で眺めていた。

お風呂に入っても髪を洗わず出てくる日が多かった。

髪はギリギリまで洗わなかったが本人の持論が、

「毎日頭を洗うと脂がなくなってハゲる」

「白髪染めの色が落ちる」

(ホントかな?)

介護する様になってから、よくこの持論を使われてサッサとお風呂から出てきてしまい、髪を洗う様に促すのが大変だった。

私と話しをする時によくこんなこと話してくれた。

「学生の頃ね、いつもお父ちゃんにだらしないって怒られてたわ。勉強してたつもりが、服のままよく朝まで寝てたから。」

と言っていた。

私はお風呂は毎日入るし、毎回髪も洗うので、母とまでではないが、時々だらしない面があるところはやはり母の血を受け継いでいるという自覚がある。

 

その点父は、とても清潔だった。

そんな父が2ヶ月近くお風呂に入れないのは、気持ち悪いだろうと常に思っていた。

とにかくお風呂に入れてあげたかった。

 

私は、人の痛みをわかる人間になりたい。

立場の弱い人に寄り添える人になりたい。

と常に頭の隅にその気持ちを忘れずにいようと努力している。

その方法の一つとしていつもその人の立場を

「自分がもしそうだったら」

に置き換えて想像してみる。

 

ま、その想像が間違えていた場合は、ただ単に

「大変迷惑な親切の押し売り」

になってしまう場合もあるが。

 

最初は娘と相談して、こっそりベビーバスを買った。

それにお湯を入れて、足湯をしてあげた。

足を洗うと2か月間の垢が、白く浮き出てボロボロととれた。

一度にはとれないので、何回かに分けて丁寧に洗ってあげた。

父は気持ちよさそうだった。

 

家の中用の車椅子は、さっさと名奈にレンタルを返されてしまった。

理由は、車椅子に頼ってしまい歩けなくなるからだ。

それは私も一理あるので特に問題視しなかった。

市立病院のドクターKが、ベッドのレンタルに関して、ベッド必要だけどたくさんの介護機能がついていると、便利だけど実は使う人はそれに頼ってしまい、回復しない。

自動で起き上がれる、足が上がるなんて便利だけど、何もないシンプルなベッドの方が、実は不便さが早く回復を導く時もあります。

と話してくれたのを覚えていたからだ。

 

実際にどうやれば父をお風呂に入れてあげられるのか?

お風呂場までどうやって行くのか。

お風呂場でどうやって座るのか。

湯船には入れないから、お風呂場をしっかり温めてシャワーで体を温めながら洗う。

と頭の中でいつもシュミレーションしていた。

父は特に寒がりなので。

 

実際にケアマネジャーに相談した。

父の寝ているお座敷に介護用湯船を搬入し、そこにお湯を入れ、お風呂に入れてあげられる業者がいるのでその方法を提案された。

介護保険も適用可能だ。

これなら!と思い名奈にも説明してもらいOKをもらった。

これは早奈と母にお湯を部屋に入れることに難色を示し猛反対された上に

「担当者が、コロナ感染したので当分行けません」

という電話で、この案は頓挫してしまう。

 

娘と私が実家にいたある日、突拍子な発言をした。

「お母さん、お風呂椅子にこだわらなくても、食卓の椅子でいいやん。」

と提案。

あ。そうか!

また娘の提案に目から鱗がポロっと落ちた。

手順はこうだ、

①お風呂場の湯船にお湯を張りお風呂場を温め、

②よっこらしょでお風呂場まで連れていく。

③食卓の椅子に座ってもらう。

④素早く身体を洗う。

あらかじめ主治医には、入浴の許可はもらっていた。

検温、血圧測定は必ずすること。

測定値がクリアならば入ってよろしい。

清潔を保つことは非常に大切なのでお風呂は是非入れてあげて下さいとのことだった。

 

いざ!入浴へ!

食卓椅子は両脇に手すりがないし、入浴は体力を消耗するので、とにかく手早く。

無事お風呂に入れてあげられた。

 

さすがに2か月の垢はしぶとく、なかなかボディソープの泡は泡立たなかった。

 

その後段取りも上手くなった。

お風呂上がりに洗面所で着替えると、お父さんが

「寒い!寒い!」

を連呼するので、

風呂場であらかじめ身体の水分を拭き取り、風呂場の中で上半身の服を先に着てから出るとご機嫌だった。

ただ、お風呂の中での手順も父はわからなくなっていた。トイレに行ってから、お風呂、石鹸で洗う、シャワー、拭くの何を先にやるのかなど。

 

父は、要するに信頼している自分の子どもからの指示ならば、良い意味でも、悪い意味でも、ある程度思い通りにコントロール出来た。

事の前後関係がわからなくなってきつつあった。

 

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↓ グループLINEのあちこちに父から

「帰れ!出て行け!」

「お化け!」

と言われたと妹は書いているが、

私も娘も一度も言われたことがない。

この父の言葉は何を物語っているのだろう。

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