第59話 名奈という人となり
名奈は双子の妹、すなわち四人兄弟の末っ子。
気立ても性格もいいし、優しいし、思いやりもある。(と思っていた)
よく、実家にある母が一番大事にしていたお茶碗やカップをガサガサとがさつに洗うので割ったり、名奈が洗い物をすると人を押しのけて私が私がとやり、私が拭きに回るとお茶碗に汚れが、お皿に泡が・・・ちゃんと洗ってほしい・・・。となる事がよくあった。
恐らく、兄弟の中で一番末っ子なので、怒られ役、叱られ役、損な役回りは早奈に全部いってしまい、甘え上手、世渡り上手な役回りだったんだと感じる。
昔はどうだったのかはっきり覚えていないが、名奈が社会人になってから私の敵にまわったことは一度もなかったし、ましてや今まで思い出す中で、一度もけんかしたことはなかったと思う。
小さい頃も思い出せないのだが、名奈をいじめたという想い出は一切ない。
今回の介護から始まった地獄のような疑惑さえなければ、私の一番頼りになり、一番信頼のおける人物だったろう。
名奈に言われる数々の暴言も、早奈から聞いて早奈の記憶を名奈が言っているようなことがほとんどだった。
逆に早奈はよく兄弟の中で何故か一緒にやるときに、なんとなくだが「ハミゴ」にされていた気がする。
名奈から発している言葉の内容が完全に名奈の記憶ではないからだ。
名奈は早奈によってまるで、早奈の皮を着た早奈化した巨大な悪魔のようだった。
それまで、名奈の悪いところがあまり見つからなかった。
あえて言えば・・・。
① 気取っているところ
② 年上の姉がいても常に意見し自分がマウントを取ろうとするころ
③ ちょっとがさつなところ
④ 変なところで潔癖なところ
だろうか。
① 気取ってるところは、本当に笑えるほど気取っている。
自分の娘に祖父、祖母のことをパパちゃん、ママちゃんと呼ばせ、おじの事を〇〇おじ様と呼ばせていた。
母譲りでプライドが高く、なんでも物の名前の前に「お」を付けていた。
お茶碗は許せるが、おソース、おネギ、お紅茶、おかばん、お給食袋、おコートまできて吹いた。
なんだかなぁ。
そこまで言わんやろ~って言葉にも「お」がついた。
そんなに高級感のある家庭かっ!
とツッコミは入れていない。(心の中の声)
② 何でもマウントを取っていしまい、何でも口を突っ込んでくるのは否めない。
意見を言うだけならいい。その相談するというワンバウンドを超えて、直接自分で電話して話しを付けないと気が済まない。
解決してからの事後報告が多すぎた。
まさに、介護でのキーパーソン問題で頭が痛くなるほどだった。
最初からあんたがキーパーソンになればすむことやろ?とは問い詰めていない。
(心の中の声)
③ いつも、「がさつ」が原因で失敗も多かった。
ふすまを破る、網戸を破る、しまいにドアを割る、お茶碗を割る(本人は完全否定しているが、何度か目の前で割ったのをいとこ全員が見ていたので確か)など。
掃除の見本!といきがって、床を拭く掃除スプレーを壁に直接吹きかけて、そのダラーっと流れる筋がクッキリついて今でも取れない跡がトイレにあった。
④ 変に異常なほど潔癖なところもあった。介護中に父に「汚い!汚い!」を連呼していたので、聞いている方がつらかった。
臭い!汚い!は常用語で、枕カバー、シーツ、パジャマは毎日洗濯らしい。
そういえば、友達の家でトイレを借りてトイレの上部の蛇口から出てくる水で手を洗えなかったと言っていた。(トイレから出てきただけでただの水なのに・・・?)
⑤ 実は何度か父に手を出したり、暴言を吐いたりしている。それは、名奈自らチラッとLINEにも書いている。
父を「叩きました」と。
両親がコロナになった当日も父にかなり暴言を吐いたらしい。
しかもその凶暴性は子ども達が証言している。叱られた時の対応が恐すぎたと。
小さな頃に髪の毛全部を握って引っ張り、そのまま身体が宙に浮いたままで玄関まで引きずり回されたことがあると言っていたからだ。
実家に行ったときに私は父に凄い剣幕で怒鳴られたことが数回あった。
「お化けっ!ここに来るな!お前は帰れ!!!」
父が突然怒鳴ったのでなんでだろうと戸惑った。
父が名奈と私を勘違いしていた自分にすぐに気づき、
「ごめんごめん。名奈が来たと思ったからや。」
とすぐに謝ってくれたことがある。
ただ、名奈は味方でいればそそっかしさは玉にきずだが、よき妹だった。
ただ、名奈を一旦敵に回すと想像を絶するほどの脅威でしか無かったことをことごとく知らされることになった。
その暴言の言葉の酷い内容と、相手に一言も話させないほど浴びさせられる連呼は、太刀打ちできないだけでなく、一言も返せなかった。