人として大切なこととは?

子、孫、そして次の世代に伝えておきたい忘れてはいけない記録

第52話 ルビーちゃん

ルビーちゃんの前には、サリーちゃんがいた。

どちらも柴犬である。

父が名付け親である。

サリーちゃんもルビーちゃんも赤ちゃんの時から飼っていた。

長生きしたサリーちゃんが亡くなってから両親はもう犬は飼わないと言っていたが、何故か名奈がまた同じような柴犬をもらってきた。

そこらへんの経緯は私は知らない。

いつの頃からか実家に行くとルビーちゃんがいた。

サリーちゃんは活発で首輪の縄を外すと裏山に何度も逃げていき、臭いのする泥をまとってかえってきては父に叱られ、すごく吠えるので、番犬の役割もしっかりしていた。

そんなやんちゃ娘のサリーちゃんと違い、ルビーちゃんは鳴かず、吠えずおとなしかった。

しかも鳴き声が、何故かメェーだった。

一度もワン!と鳴かなかった。

ワンちゃんなのに。

面白いので。探偵ナイトスクープに出そうかと思ったくらいだ。

出してないけど。

母はお買い物、お散歩のお供にどこでもルビーちゃんを連れて行っていた。

母の足が丈夫なのはルビーちゃんのおかげだと思う。

父が要介護5になった頃、同時に何故かルビーちゃんも要介護状態になっていた。

早奈から、実家に来るな!と怒鳴られて半年後に見たときには、骨が見えてガリガリに痩せていた。

何故急にこんなになったのか?病気なのか?とずっと疑問だった。

最初は首が曲がりぐるぐると右回りしていた。

エサをあまり食べなくなった。

そのうち寝たきり状態になった。

ある日名奈から事情を聞いた。

母は年末ごろから散歩に連れて行ってなかった。

実はエサもやっていなかったらしい。

お正月に名奈が気づいた時にはガリガリに痩せこけて餓死寸前になっていたらしい。

半年前は、おばあちゃんとひ孫で必ずお散歩に行っていた。

ルビーちゃんはとても元気だった。

孫の双子ちゃんは、犬が大好きだったのでこぞってお散歩に行きたがり、散歩から帰ると晩ごはんをあげるのが習慣だった。

お散歩の写真が沢山iphoneに残っている。

早奈が私たちに実家に来るな!と言った時期と完全に一致する。

それが、11月の出来事だからだ。

早奈が私達を排除しなければ、こんな事にならなかったと思う。

 

何故、母は全くルビーちゃんのお散歩に行かず、エサをやり忘れていたのか?

間違いなく母は認知症だと思う。

散歩は寒いし面倒くさい。

いつも一緒にお散歩に行っていたひ孫も一切来ない。

夕方になり、ルビーちゃんが鳴くとウルサイので、まだ明るいのにシャッターを閉めカーテンを閉めていたのだ。

↓ 痩せ細ってしまったルビーちゃん

ルビーちゃんが大変になったその時期は、同時に父の介護が大変な時期、本当に寝る間もないほど大変だった。

コロナ禍になり、早出出勤だった私は、朝5時には実家を出る。

金曜日の夜は16時半に仕事が終わり、通勤時間が結構かかるので、急いで買い物して18時半~19時に実家に行く。

ホントに毎日、食事の用意、食事介助、おしめ換え、う○ことの闘い、身体拭き、などがあり、動けない父に付きっきりで、クタクタだった。

そんな中、父の介護以外に名奈がルビーちゃんの散歩、えさやりの指示を出してきたときには、本当に辛かった。

ルビーちゃんは歩けないし、吐くし、どんどん弱ってきているのに、

「散歩!散歩をしないとダメになるから!散歩は欠かさず必ず連れて行って!」

とキツく言われた。

 

夜、餌も食べられなくなってきたルビーちゃんはお庭でメェーメェー鳴いた。

噴水事件でうちに恨みがあるお隣さんは、

「犬の鳴き声がウルサイのでどうにかなりませんか?寝られません。」

と苦情を言いに来た。

仕方なく、夜は玄関に連れてきて新聞紙を敷いてカゴに入れて寝かせた。

足や身体のあちこちが痛いのだろう。

寂しがりのルビーちゃんは玄関に来ても夜中ずっとメェーメェー鳴いていた。

父の介護、ルビーちゃんのメェメェで一睡も出来ない日が続いた。

 

↓ 身体にも足にも傷が沢山あり、そこがむけて痛そうだった。

 

「ルビーちゃんお散歩はもう無理だよ。傷もいっぱいあるし。」

と名奈に伝えると、

「こうやってお散歩させて!とにかくリハビリが必要!歩かせないと歩けなくなる!」

とずるずる、ずるずるとロープ無理矢理引っぱった。

「来ない時はこうするの!」

と首輪を持って引きずり回して、「散歩の見本」を見せてくれた。

引きずられながら、少し足をパタパタしたので歩いてるようには見えたが、後でよく見たら、ルビーちゃんの両足から血が流れていた。

 

父に対しても無理矢理動かない足をリハビリ!と言って動かしていたから、首を思い切り引っ掻かれたり、

「お化け!帰れ!」

と父から言われていた早奈と名奈。

「私は、お化けと言われても平気なの!これでお父さんが回復するんだから!」

と、動かないものを無理矢理動かすことに信念を持っていた。

 

動かない足や手を無理矢理動かされることが、どんなに悲鳴をあげるほど痛いことなのかは、人の痛みがわからない彼女たちには、絶対にわからない。

 

父に対しても、ルビーちゃんに対しても私から言わせると同じだった。

「やり過ぎ」だということにいつ気がつくんだろうか。

 

私と孫はいつも暖かい日差しの日には、ルビーちゃんを抱っこして公園に連れて行った。

犬が大好きな孫は、陽だまりの中に横たわっているルビーちゃんをいつまでもいつまでもなでてあげていた。

 

当の母は、ルビーちゃんを触ろうともせず、ましてや世話など全くしなかった。

隣から苦情が来た時も、

「鳴き声がうるさいならしょうがないわよねぇ。そんなにお隣に聞こえるのかしら?」

と他人事みたいに言っていた。

父がどんどん回復して行くのとは逆に、ルビーちゃんはどんどん弱っていた。

 

今から思うと、飼い主が高齢になってからペットを飼うこと自体飼う側の責任がある。

飼い始めたのは、名奈なのだから動物を飼うなら最後まで責任を持つべきなのに、なんでルビーちゃんのお世話まで強制されるのか訳がわからない!とも思った。

実家から、ほんの数分の近くに住んでいるのだから、自分の家に持ち帰るという選択肢もあったはずだが、絶対にそんなことはしなかった。

 

しかも、早奈が私達家族に、

「実家に来るな!」

と発狂しなければ、ルビーちゃんはもっと長生きしたはず。

 

メエ~メエ~鳴く鳴き声のルビーちゃんは静かに亡くなった。

(2022年4月5日逝去)

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